社長ブログ
森信三語録(十八)
小を積んで大と為す
「城の石垣は一つずつはずせ」という真理がある。
人間をつかむのも一人ずつから———。
生徒の教育も同じ。
一人に集中するのだ、一人をめざすことだ。
(森信三「研修会五十六回史」)
人に人を変える力はありません。
自分自身を変えることも儘ならないし、自分の子供でさえも思い通りに変えることができないのに、どうして他人を変えることができるでしょうか。
冷静になれば容易に分かることですが、自分の思い通りにならない周りの人たちに、ついつい苛立ってしまうこともあるものです。
そのような苛立ちの裏には、たいていの場合、手間を省きたい、楽になりたいという心理が働いています。
人に人を変える力などないという真理を十分に心得ていれば、それを当然のこととして受け容れることができ、「一人に集中し一人をめざすこと」から始められるのです。
現状を変えるために、今の自分に出来ることから始めるしか、変革を起こすことは出来ないのです。
これはこと教育だけのことではありません。
森信三先生が大変大きな影響を受けた二宮尊徳は次のようなことを言っています。
ここに竹木など本末いり交じり竪横に入り乱れたるあり。
これを一本づつ本を本とし末を末にしてやまざる時は、ついに本末そろいて整然となるなり。
(「二宮尊徳夜話」)
(現代語訳)
ここに竹や木などの幹や枝が入り混じって鬱蒼とした藪がある。
これを一本づつ幹を幹に、枝を枝として、諦めずに整理し続けていると、いつかは幹枝共に揃って、整然とした林になるものだ。
二宮尊徳が生きた江戸時代末期は、度重なる飢饉と重い年貢に農村が疲弊し、多くの農民が酒や博打に耽り心を荒ませていました。
また、困窮の余り故郷を捨てて流民となる者も少なくなかった時代です。
尊徳はそんな時代に、六百余ヶ村の復興を成し遂げた偉人ですが、それを奇抜な手法で行ったのではありません。
どんなに困難な状況であろうとも率先垂範して、右の文章にあるように、一つ一つを丁寧に解決し、決して諦めることがなかったのです。
その結果、誰もが可能とは思えなかった偉業を成し遂げることができたのです。
何かを成し遂げられるかどうかは、どんな手法を用いるかということよりも、「小を積んで大と為す」という粘り強さと、それを支える使命感が肝要なのです。
私たちがこの短い人生において、何事かを成し遂げて、人のお役に立てるかどうかは、ここに懸かっているといっても過言ではないのです。